大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2615号・昭26年(ネ)2594号 判決

第一審原告 鈴木彦一郎

第一審被告 菅生イシ 外一名

一、主  文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

二、事  実

昭和二十六年(ネ)第二六一五号事件控訴人、同年(ネ)第二五九四号事件被控訴人第一審原告鈴木彦一郎(第一審原告と略称する)訴訟代理人は、昭和二十六年(ネ)第二六一五号事件につき「原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。第一審被告西万蔵が東京都墨田区向島須崎町百四十九番地宅地百五十八坪七合五勺の内百五坪四合(原判決添附図面中斜線を施した部分)につき賃借権を有しないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告西万蔵の負担とする。」との判決を、昭和二十六年(ネ)第二五九四号事件につき控訴棄却の判決を求め、昭和二十六年(ネ)第二五九四号事件控訴人第一審被告菅生イシ(第一審被告菅生と略称する)訴訟代理人は、「原判決中第一審被告菅生敗訴の部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求め、昭和二十六年(ネ)第二六一五号事件被控訴人第一審被告西万蔵(第一審被告西と略称する)訴訟代理人は、「第一審原告の控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、第一審被告菅生代理人において、「(一)賃貸人の承諾のない賃借権の譲渡は、その譲渡の目的を達するることができないから、賃借権の譲渡は常に賃貸人の承諾をその停止条件とするものである。それ故停止条件附たることの明示の意思表示のない場合でも賃借権の譲渡があれば、賃貸人の承諾を停止条件としたものであると解すべきものである。(二)仮に本件賃借権の譲渡が停止条件附の法律行為でないとすれば、本件は第一審原告の承諾を期待してなされたものであり、第一審原告が承諾しないことが判つていたとすれば、これをなさなかつた関係にあるから、本件賃借権の譲渡は法律行為の要素に錯誤があるものというべく、民法第九十五条に該当する無効の行為である。(三)第一審原告の解除は権利の濫用である。第一審被告菅生が本件賃借権を第一審被告西に譲渡することを思止まり、従前通り自ら使用しようというのに第一審原告が賃貸借を解除し、時価百万円以上の本件賃借権を消滅せしめ、自ら巨利を占めることは公平の観念に反し権利の濫用である。(四)民法第六百十二条第二項により賃貸借を解除するためには譲受人が使用又は収益をしたことを前提要件とするものであるところ、第一審被告西は本件借地の引渡を受けず、まだ使用収益も始めていない。第一審被告西がなした地ならしは本件土地の使用にはあたらず、かりにあたるとしても第一審被告菅生が関知しない内になされたもので、第一審被告菅生が第一審被告西に本件土地の使用をなさしめたものでないから、本件解除は不適法である。」と述べ、第一審原告代理人は、「第一審被告菅生の右主張事実中第一審原告の主張に反する部分は否認する。」と述べた外、原判決事実摘示記載(原判決添附図面をふくむ)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

まず第一審原告の第一審被告菅生に対する請求について判断する。第一審被告菅生が第一審原告から昭和二十一年十一月二十三日当時東京都墨田区向島須崎町百四十九番地宅地百五十八坪七合五勺のうち、百五坪四合(原判決添附図面中斜線を施した部分)を賃借していたこと、第一審被告菅生が前記日時本件宅地に対する賃借権を第一審原告の承諾を得ないで第一審被告西に譲渡したこと、第一審原告が第一審被告菅生に対し右賃借権の無断譲渡並びに第一審被告西に本件土地を使用させたことを理由として、昭和二十三年八月八日到着の書面で右賃貸借解除の意思表示をしたことは当事者間に争がない。

第一審被告菅生は、右賃借権の譲渡は賃貸人たる第一審原告の承諾を停止条件としてなされたものであるから、第一審原告が承諾を与えない以上賃借権譲渡の効力を生じないと抗争するけれども、賃貸人の承諾のない賃借権の譲渡は条件附たることを示さない場合でも、常に賃貸人の承諾を停止条件とするものと解すべきであるとする法理はなく、その他本件に現われた一切の証拠によるも、右賃借権の譲渡が条件附であると認むるに足る証拠がないばかりでなく、原審証人大内新太郎当審証人小川常次郎の各証言によれば、第一審被告西は昭和二十一年十一月第一審被告菅生に対し本件賃借権譲渡の代金として金四万二千四百円を支払つたことが認められるから、右賃借権の譲渡は無条件でなされたものと認むべきである。よつて第一審被告菅生の右抗弁は理由がない。

次に、第一審被告菅生は本件賃借権の譲渡は、法律行為の要素に錯誤があるから無効であると抗争するので按ずるに、第一審被告菅生が法律行為の要素となすのは、第一審原告の承諾が得られることであつて、右は本件賃借権譲渡の縁由にすぎず、当事者双方が、これを特に表示しない限り法律行為の要素となることがないばかりでなく、仮に法律行為の要素とするも、民法第六百十二条第二項は、賃貸人の承諾を得ないで賃借権を譲渡し、かつ第三者にこれを使用収益せしめた場合賃貸人において賃貸借を解除することを得しめたものであつて、この場合は、右賃貸借の譲渡に、かかる縁由の錯誤があつた場合でも賃貸人に解除権を与えたものと解するのが相当であるから、第一審被告菅生の右抗弁もまた理由がない。

第三に、第一審被告菅生は、本件解除は権利の濫用であると抗争するけれども、第一審被告菅生の主張するところは、もつて本件解除が権利の濫用であると認むに足る理由たらざるものであり、前段説示のような事情の下において第一審原告が民法第六百十二条第二項により与えられた解除権を行使することは無理からぬことであるといわざるを得ないから、第一審被告菅生の右抗弁もまた理由がない。

第四に、第一審被告菅生は、本件土地を第一審被告西に使用せしめたことがないと主張しているけれども、前段認定のように、第一審被告菅生が本件賃借権譲渡代金を受領した以上、特段の事情がない限りその時において賃借権が譲渡せられたものと解すべく、かつ、当審証人小川常次郎の証言によればその後において譲受人たる第一審被告西がとび職人に命じて本件土地の地ならしをなさしめ、かつ同人が本件土地上に材木を置くことを許容したことが認められるから、本件においては、正に民法第六百十二条第二項所定の解除権行使の要件たる「前項の規定に反し第三者をして賃借物の使用……をなさしめるとき」にあたるものというべく、第一審被告菅生の右抗弁もまた理由がない。

よつて、第一審被告菅生の抗弁はすべて理由なく、第一審原告の同被告に対する前段認定の解除の意思表示により右賃貸借は解除せられ、同被告は現に本件宅地に対する賃借権を有せざるものというべきである。しかるに、同被告は本件宅地に対し自己が賃借権を有していることを主張しているのであるから、第一審原告は同被告が本件宅地に対する賃借権を有せざることを即時確定する利益を有するものというべく、第一審原告の第一審被告菅生に対する本訴請求は正当として、これを認容すべきものである。

次に第一審原告の第一審被告西に対する本訴請求が失当であつてこれを棄却すべきものであることについては、原審判決理由において説示されている通りであつて、当審証人小川常次郎の証言は、何の影響も及ぼさないから、ここに原判決理由を引用する。

よつて、第一審原告の控訴、第一審被告菅生の控訴はいずれも理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大江保直 岡咲恕一 猪俣幸一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!